はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

ヒナ田舎へ行く ブログトップ
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ヒナ田舎へ行く 110 [ヒナ田舎へ行く]

なにかが間違っているような気がした。

ブルーノはラドフォード館に向かって自転車を走らせながら、ウォーターズとの短い面会について思いを巡らせていた。

そもそも、おれは何しにウォーターズに会いに行ったのか。

ヒナが心待ちにしている手紙の返事を貰うため。もしくは催促するため。

となると、目的は達成できたのか、できなかったのか。

ひとまず手紙は貰えなかったが、すでに書き終えているという。だとしたらなぜ、今日渡さなかったのだろう?無論、約束のクッキーが準備出来ていなかったからだろう。

ヒナは手紙とクッキーどちらを待っているのか?

両方携えたウォーターズで間違いない。なぜあんな男を気に入ったのか不思議だが、それを言うなら、カイルはなぜあんな間の抜けた男を師匠などと。ああ、そうだった。ウェインは馬車の扱いがうまいんだった。まったくそうは見えない平凡な顔なので、すっかり忘れていた。

雨粒がシャワーのように顔に降り注ぐ。やむと思っていたが、予想は外れた。

ブルーノはぎゅっとハンドルを握り締めた。ヒナに明日ウォーターズがやって来ることを教えてやれば、機嫌はたちまち直るだろう。そうすれば、きっと、ダンの機嫌も上向くはず。スペンサーなんかと雨の中出掛けるような真似もしないはず。あれは一種の憂さ晴らしのようなものだとブルーノは考えていた。自分が出掛けたのもそういう理由だから、よくわかる。

屋敷へ戻り着替えを済ませると、ヒナとカイルが待ってましたとばかりにキッチンに下りてきた。いかにも寝起きですと目を擦るヒナは、ブルーノが外出していたとは夢にも思わなかったようだ。

「ブルゥ、ヒナね、お昼寝したらおなかすいた」まるで三歳児のような発言だ。

「僕も」カイルも似たり寄ったり。

「一緒に寝ていたのか?」ブルーノは訊きながら、湯を沸かし始めた。おやつにと考えていたアップルパイを温め直すため、オーブンに火を入れる。

「ううん。階段で一緒になっただけ」カイルは二人分椅子を引き寄せ、作業台兼おやつテーブルにヒナと並んで座った。

二人とも手伝う気はないようだ。だがまあ、ひと眠りしたことで機嫌は直ったようだ。

それなら明日の予定は、スペンサーが戻ってから話し合うとしよう。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 111 [ヒナ田舎へ行く]

違和感の正体はウォーターズにあった。

ブルーノの頭の中でパズルのピースがぴたりとはまった。
あの男は商売人なんかじゃない。クラブ経営?どう見たって、細かな金勘定をするようなタイプではない。

金なんかどうでもいい、本物の金持ちだ。

「ダン遅いね」ヒナが熱々のアップルパイをフォークでつつきながら、ぽつっと言う。「ぬけがけしてるのかな?」

「ぬけがけ?美味しいもの食べてるかもしれないってこと?」カイルはパイの中から飴色のりんごをほじくり出した。「ありえるね」フォークにこれでもかとりんごを突き刺す。

「もうすぐ帰って来るさ」

グサッ!!

ブルーノはアップルパイにフォークを突き立てた。

ぬけがけなんかさせるものか。ダンをどうこうしようという気はないが、スペンサーがちょっかいを出す気なら、黙ってはいないぞ。

ブルーノとスペンサーの好みは似ている。

こればっかりはどうしようもないが、トビーの事があってからは、共有しているのはフロッキーのみとなった。ブルーノのものはブルーノのもの、スペンサーのものはスペンサーのものだ。

「ねぇ、ブルゥ。今日の夜はにんじんスープがいいな」ヒナが晩餐に注文を付けた。

「にんじん?好きなのか?」ブルーノは不思議そうに訊ねた。すでにヒナが野菜嫌いだと認識していたからだ。

「ダンが好き」と、ブルーノの味方ヒナが言う。

「へぇ、そうか。まぁ、にんじんスープくらいすぐに作れる」そんなものは造作もない。ダンが好きなら、なおのこと。

「えぇぇっ!僕、にんじんスープ嫌い」カイルが抗議の声を上げる。

ブルーノは黙殺し、パイで口をいっぱいにした。

「ヒナも嫌い」ヒナが告白する。

「じゃあどうしてリクエストしたの?」カイルは唇を尖らせた。

「ダンはごきげんななめだから」ヒナも唇を尖らせた。

「うーん、確かにね。まあ、ブルーノのせいだから、やっぱりにんじんスープでご機嫌取りした方がいいね」カイルは納得し、フォークのりんごをちまちまと食べ始めた。

「本当のところ、ダンはなんで不機嫌なんだ?」ブルーノは真剣に訊ねた。ダンが不機嫌になったのは朝食後から昼食までの間だ。朝食の時のやりとりも多少は含まれるだろうが、それが大元の原因ではないと踏んでいる。

ヒナはひとしきり迷った様子を見せ、それから言った。

「ダンはヒナといた」

その一言で、ブルーノはすべてを悟った。

ダンも立ち聞きをしていたのか。

どうりで俺を避けるわけだ。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 112 [ヒナ田舎へ行く]

双眼鏡には値札が付いていなかった。

手に取ってそれに気付いたが、足はすでにカウンターに向いていて、キャリーもスペンサーもこちらを見ていて、もはや引き返すことは出来なかった。

目玉が飛び出そうな金額だったらどうしよう。

ダンは額に冷や汗を滲ませた。出掛ける時には出費することを想定していなかったので、手持ちで足りるかどうか……。

けれどもうまい具合に、まごついているのに気付いたスペンサーが助け舟を出してくれた。結局、キャリーと値段交渉の末、双眼鏡は言い値の半分ほどで買うことが出来た。

そう安くはなかったが、これでヒナの機嫌が直れば、結果は丸儲け。そう言っても過言ではないだろう。

そして自分の機嫌はというと、屋敷へ帰り着く頃には出掛ける前ほど苛々はしていなかった。それでもブルーノと顔を合わせると思うとどこか気が滅入ってくる。いつまでも避けてはいられないけど、出来るだけ顔を合わせずにいたい。

なんて思うなんて馬鹿げている。

そもそも盗み聞きしておいて勝手に気まずくなっている自分がおかしいのだ。内容自体、そう驚くべきものではなかったのに。もちろん、旦那様に仕える者としてはと言う意味だ。これまでクラブの事、旦那様とヒナの関係その他もろもろ、何ひとつ受け入れ難いと思った事はなかった。

けど、ブルーノとトビーの事となると……。

ダンは妙な考えを振り払うかのように頭を振った。

「スペンサーのおかげでいい買い物が出来ましたよ」ダンは雨の中声を張り上げた。

「そうか?まぁ、あのくらいのことなんでもない。キャリーとは付き合いが長いからな」

不思議なことに、スペンサーに対してはなんの気まずさもなかった。トビーと無関係ではないのに。

「でも、ありがとうございます」気分転換に外出を許可してくれただけでも、感謝に値する。

「ヒナが気に入るといいな」スペンサーはダンが濡れないようにと抱き締める包みに目をやった。

「ええ」そう返事をしたところで、馬車が玄関前で止まった。

「身体が冷えたな。居間で熱い茶でも飲もう。俺はこいつを戻して、それからキッチンに寄る。ああ、もし着替えが早く済めば暖炉に火を入れておいてくれ」

「承知いたしました」ダンは簡潔に言い、荷物を手に馬車を降りた。

熱いお茶は有難いが、誰が持って来るのかを考えると、そうそう有難がってもいられない。どうにか気持ちを切り替えて、ブルーノに接しなければ。

そうしないと、これからの長い期間、とてもじゃないけど乗り切れないだろう。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 113 [ヒナ田舎へ行く]

ガタンと勝手口から音がした。

ブルーノは耳をそばだてた。バサバサと雨粒を払う音はひとつ。あの大袈裟なやり方はスペンサーだ。ダンはどこだ?一緒ではなかったのか?

「帰って来たんじゃない?」カイルが腰を浮かせる。けれどすぐに座り直し、空洞になったアップルパイにかぶりついた。中身のりんごはとっくに腹の中だ。

「ダン、帰って来た?」ヒナが不安そうに訊く。さっきまでアップルパイをいじいじとつつきながら、ダンに見捨てられたら困ると愚痴をこぼしていたのだ。意外な一面だった。

「なにもこんな雨の日に出掛ける事はなかっただろうに」ブルーノはぶつくさとこぼしながら席を立った。手を伸ばして一番小さな鍋を取ると、ワインとスパイスのボトルをいくつか台の上に並べた。

「ホットワイン作るの?」カイルが訊ねる。僕も飲みたいといった顔つきだ。

「ああ、随分冷えただろうからな」

「ほっとわいんってなに?」ヒナは身を乗り出し、鍋の中を覗き込んだ。

「ワインにあれこれ入れて温めたやつ。あったまるのにいいよ」カイルも鍋を覗き込む。

「そうなの?ヒナもあったまる」

「ヒナは寒くないだろう?それにワインは飲めないだろうに」ブルーノは鍋を火にかけた。

「そうだよ」とカイル。ヒナが間違えてダンのワインを飲んで噴き出したことを忘れてはいないようだ。

ヒナはぶうっとふくれっ面をした。

そこにタオルを手にしたスペンサーが現れた。顔をごしごしとやりながら「居間に茶を頼む。二人分」とだけ言って、そのままキッチンを出て行った。ただいまもおかえりもなし。土産の話や、ヒナがいい子にしていたのかとか、そういう話も一切なし。

茶を二人分だと?誰が二人きりにさせるものか。

ブルーノは大鍋を取り出した。

「よし、ヒナがそこまで言うなら、みんなでホットワインを飲もう」

ヒナは『そこまで』言っていないし、スペンサーもホットワインは注文していない。けれど、スペンサーにこれ以上先を行かれたくないし、ダンとぎくしゃくしたままなのも嫌だ。

盗み聞きしただろう?とは到底訊けないが、妙な下心がないことははっきりと告げておきたい。そのためには特製ホットワインの力を借りる必要がある。紅茶にたっぷりのブランデーでもいいのだが、それでは子供たちを巻き込めない。

「やった!さすがブルーノ」

「さすがブルゥ!!」

カイルとヒナは大喜びだ。大人のまね事がしたい年頃ではあるが、ヒナにワインはちょっと不安だ。

「じゃあお前たちは、アップルパイの残りとカップを先に運んでおいてくれ」ブルーノは早々に、先遣隊を居間へと送り込む事にした。

二人はきゃあきゃあ言いながら、命じられた通り居間へ向かった。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 114 [ヒナ田舎へ行く]

ダンは着替えを済ませると、ヒナの部屋を覗いた。

ベッドを使った形跡がある。中央の辺りだけシーツが乱れ、足下にはくしゃくしゃに丸まったケットと靴下。どうやら昼寝はしたようだ。いまはキッチンでブルーノになにかごちそうして貰っているのだろう。今日のおやつは何だろうか?

ブルーノの焼くパイは素朴で美味しい。シモンが作るパイのように繊細で気取ってはいないが、ダンは素朴な方が好みだったりする。母の味を思い出すからだ。

レモンパイが食べたいけど、いまはとにかく温まりたい。立派な外套のおかげでほとんど濡れずに済んだのに、手足は驚くほど冷え切っている。

ああ、そうだ。暖炉の火をおこして、ケットにくるまって、はちみつたっぷりの甘い紅茶を飲もう。きっとブルーノが身体の温まるものを用意してくれているはず。

ダンはヒナのお昼寝ケットを手に部屋を出た。居間で家族のようにくつろぐなんてロンドンのお屋敷ではけっして出来ないことだ。でも、ここでは出来る。

ケットを抱きしめ廊下を進む。途中絨毯の擦り切れた場所でつまずき転びそうになった。ヒナだったら絶対こけていた。ダンは早急に修復を依頼しようと、頭の片隅にメモを取った。

屋敷の中は静かだった。まるですべての動きが止まったかのような、休息の時。ダンはいつの間にか息を殺していた。静寂が自分の呼吸で掻き消えてしまわないようにと。

そっと忍び足で居間に入ると、こちらに背を向け暖炉の前に立つスペンサーが、ほんのわずかな音も聞き逃さないというように、さっと振り返った。ダンの姿を見て愉快げににやりとする。

「すぐに暖まる。こっちでそれにくるまってひと眠りするか?」

スペンサーのからかいにダンは頬を熱くした。胸に抱いていたケットを背中に隠し、炉端に寄る。部屋を暖めておく役目はこちらにあったのに完全に出遅れた。

「すみません。もっと早く下りてくるべきでした」

「お前は着替えに時間が掛かることを忘れていたのは俺だ」スペンサーはダンの完璧な装いをしげしげと見つめた。「もっと楽な格好をしてもいいんだぞ。誰も気にしない」

誰が気にしなくとも僕は気にする。そう顔に出ていたのか、スペンサーはこれは愚問だったなと肩をすくめた。

ダンは気まずい思いでひょこひょこと火の当たる場所に進み、促されるままスペンサーが引き寄せた椅子に腰を下ろした。

なんだか、スペンサーがあまりに親切で恐ろしい。もしかして追い出す作戦ではないかと勘繰ってしまう。でもスペンサーは約束した。僕を追い出したりしないと。事あるごとに思い出さずにはいられないのは、追い出されたりなんかしたら非常に困るからだ。僕もヒナも。そして旦那様も。

「スペンサーは着替えなくていいんですか?」

「まあ、ここでこうしていればじき乾く」スペンサーは無頓着に言い、ダンの額のかさぶたに触れた。「悪かったな」

「べ、別に、もう平気です」ダンはスペンサーの手を振り払うように頭を振った。

親切すぎるのも考えものだ。何か裏があると思わずにはいられないのだから。だって、元はといえば、スペンサーがこの傷を付けたようなもの。非情にもブルーノに僕を追い出すように指示したのは、何を隠そうスペンサーなのだ。いまさらちょっとばかし心配されたからって、あの時のことを忘れるようなダンではない。

そもそも根に持つタイプではないが、何もなかったかのようにすべてを水に流せるほど出来た人間でもない。

「でも、こんなふうに傷つけるつもりはなかったことは分かって欲しい」

真剣に言われると、もうどうしていいか分からない。

「こんなのどうってことありません」

そう言う以外に言うことがあったなら、ぜひ教えて欲しいものだ。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 115 [ヒナ田舎へ行く]

「もぉ~、ヒナ待ってよ~。走ったら落ちちゃう」

「ヒナが一番乗りだもーん。わぁ~、カップ落ちちゃうよ。ブルゥに怒られても知らないからね」

子供が二人、きゃはきゃはと笑いながら部屋に飛び込んできた。

ヒナの手には食べくさしのパイ。カイルは人数分のカップを入れた籠を持って。

チッ!邪魔をされたか。

スペンサーは内心毒づいた。

ブルーノのやつ、ダンと二人きりにさせまいと、手下どもを送り込んできやがった。ということは、本気を出してきたということか。幸か不幸か、ヒナが味方に付いたわけだし、自分の方が有利だとでも思っているのだろう。

スペンサー自身、ダンに対してどのように振る舞うか決めかねていたが、これで方向性ははっきりした。弟に好き勝手させるほど、甘っちょろい兄ではない。それが答えだ。

「ダンいたー!」ヒナはパイをテーブルに置き、パタパタと駆けてきた。

ダンは立ち上がってヒナを迎えた。「先ほど戻りました。おやつ、まだだったんですね」

「あれはダンとスペンサーのぶん。ヒナたちはほっとわいんを飲むの」

「ホットワイン?紅茶を頼んだはずだが」スペンサーは声に不満を滲ませた。自分の得意分野でダンを釣る気か?

「ブルーノがさ、すっごく冷えただろうからって」カイルは無邪気に言い、テーブルにカップを人数分並べた。「ブルーノの特製ホットワインは一発であったまるんだ」ヒナと同じようにパタパタと駆けてくる。

「でも、ヒナはワインなんて飲めないでしょう?」ダンは眉根を寄せ、不安そうにヒナを見やった。

「ジンジャーシロップを入れてくれるって」とヒナ。

ヒナはジンジャーシロップを入れたホットワインの味をまるで分っていない。そんなもの、口にした途端噴き出すに決まっている。

「それで飲めるようになりますか?」ダンは眉間の皺を深くした。スペンサーと同意見のようだ。

「ブルゥのおすすめ」絶対飲むんだと意気込むヒナ。ダンは困った顔で、スペンサーにどうにかしてくださいと助けを求めた。

おぞましい味に違いないと決めつけるスペンサーは、ひとまず、きょろきょろと座る場所を探すヒナのために椅子を引き寄せた。

「飲んでみればわかるさ」そうするしか手はないだろうと、ダンに目配せをする。なぜなら、ヒナはこうと決めたら容易に諦めたりはしない。この三日で、それは認識済みだ。

「まぁ、そうですね」ダンは諦めて椅子にすとんと腰をおろした。

カイルも椅子を引いてきて、ヒナの横に並ぶようにして座った。スペンサーもダンの横を陣取り、四人で暖炉を囲んだ。

後方に投げ出されたパイとカップ。ブルーノがやって来たら、この状況になんと口を挟むのだろう。

スペンサーはサディスティックに微笑んだ。

弟と争うのは約一年振り。前回はある意味では勝負にならなかったが、今回は違う。

どちらがダンを得るのか、時期に分かるだろう。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 116 [ヒナ田舎へ行く]

「そうだ。ヒナにお土産があるんですよ」ダンはケットに紛れ込ませていた包みを取り出した。

「おみやげ!やったぁ。ありがとダン」ヒナは椅子の上でぴょんと跳ねた。なかなかいい反応だ。

「ちなみに、食べ物ではありませんよ」ダンは人差し指を立てて、ひとつ忠告した。あとあとがっかりなんてされたら、胸がチクンと痛んでしまう。

「よかったね、ヒナ」スペンサーに勉強道具一式を貰ったカイルはごきげんだ。

ヒナは手のひらを上に向け、並べてダンに差し出した。

ダンはヒナの小さくて綺麗な手の上に、青い包装紙でラッピングされた双眼鏡を置いた。

ヒナは中身を確かめるように手の中で包みを転がし「ごつごつしてる」と目を輝かせた。

ダンは胸をドキドキさせた。ヒナにプレゼントなんて初めてのこと。「開けてみて」

ヒナはえへへと笑って、まるで赤子のおくるみをはぐように、優しい手つきで包みを開けた。

ダンはヒナのこういうところが好きだったりする。どうせたいしたものじゃないんでしょ、なーんて馬鹿にしたりしない。どんなささやかなものでも、諸手をあげて喜ぶ。だから旦那様は、ヒナの為なら何でもしてあげたいと思うのだろう。

「なにこれ?」ヒナがきょとんとする。どうやら双眼鏡は初めてのようだ。

「双眼鏡。遠くを見るものだ」スペンサーがざっと説明する。

「遠く?ウォーターさんちも見える?」ヒナがスペンサーに訊く。

「いや、それは無理だ」

「でも、丘に登れば見えるんじゃない?ねぇ、スペンサー」ヒナをがっかりさせまいと、カイルが口を挟む。

「じゃあ、丘に登る」とヒナ。

それならいっそウォーターズ邸へ行った方がいいのではと、ダンは思った。まぁ、スペンサーが許してくれたらだけど、そうすると、今度はスペンサーが困ったことになる。

誰も困らないいい手はないだろうか?

「よし。雨がやんだら、丘の上まで連れて行ってやろう」

そう言ったのは、大ぶりなティーポットを手に部屋に入って来たブルーノだった。

ダンはブルーノを手伝おうと立ち上がった。が、スペンサーに座っておくように促された。ヒナとカイルが手伝いに立った。ここから見ていると、二人はブルーノの周りをちょこちょこと駆け回る仔犬のようだ。

「お前はしっかり火にあたっていればいい」スペンサーはそう言って、ケットでダンをくるむと、ホットワインを取りにテーブルまで行った。

やっぱり、どこかおかしい。

ダンは不安に身体を震わせた。これではホットワインを飲んだくらいでは温まりそうにない。暖炉に足でも突っ込まなければ。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 117 [ヒナ田舎へ行く]

「風邪を引かせたりなんかしないだろうな?」ブルーノはホットワインの入ったカップを二つ、スペンサーに手渡しながら言った。もちろん、アップルパイを五等分するのに夢中な子供たちには聞かれないように。

まったく。さっき十分食べたのにまだ食べる気か。

「たった半日でお前のものにでもなったのか?」スペンサーはカップを受け取り、今朝までほとんど自覚のなかったブルーノのダンに対する感情を逆なでした。

「こんな雨の中連れ出すこともなかっただろう」ブルーノはなんとかスペンサーの言葉を受け流し、怒りを抑えるようにして声を絞り出した。午後はずっと独占していたくせによく言う。おれのものになる隙があったのなら教えて欲しいものだ。

「まぁ、明日でもよかったが、付いてくると言ったのはダンだということを忘れるな」

「ダンがどうしたの?」ヒナがテーブルに落ちたパイのかけらを摘み上げながら言う。もれなく口に運んだ。

「ヒナに双眼鏡をプレゼントしたという話をしていたんだ。カイルも明日からすぐに勉強できるしな」スペンサーがぬけぬけと言う。

「そうなんだ。スペンサーがノートやらペンやらいーっぱい買ってきてくれたから、僕、ヒナと一緒に勉強できるんだ」カイルは頬を上気させ興奮している。よほど嬉しかったのだろう。

「そうしたいだろうと思って、雨の中出掛けたというわけだ」スペンサーは勝ち誇った目をブルーノに向け、くるりと背を向けた。「あ、パイは切り分けたら持ってきてくれ」振り返りもせず言うと、ダンの元へ舞い戻った。

「はーい」とカイル。

スペンサーは完全にカイルを味方に付けたようだ。

くそっ!くそっ、くそっ!

スペンサーが人を苛つかせる天才だと分かっていても、まんまとそれに乗ってしまう。いい子でいるうちは害のない兄だが、ひとたびこちらが逆らおうものなら容赦ない。カイルもこれで何度泣かされたことか。そんなことはすっかり忘れて、たかがペンだかノートだかで足元にひれ伏すのだから、まったく。子供というのは……。

ブルーノはぶちぶち不満をこぼしながら、ダンと並んで座るスペンサーの背に、視線という鋭い刃物を突き立てた。

残りのカップにワインを注ぎ、ヒナの前にひとつ押しやった。「はい、ヒナ。熱いから気を付けるんだぞ」

「うん」と言ったヒナは、湯気の立つカップをのぞき込んで困った顔をした。

猫舌のくせに、『ヒナもあったまるぅ』とか言うからこうなるんだ。でもまぁ、ヒナが言い出したおかげで、ダンとスペンサーをこれ以上二人きりにさせずに済んだ。

「僕のはそこに置いておいて。アップルパイ持ってってくるから」カイルはしっぽを振りながら、暖かな場所へと行ってしまった。

「取られちゃったね」ヒナが意味深に言う。

ブルーノは唯一の味方を見おろし、頼りなさげに形ばかりの笑みを作った。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 118 [ヒナ田舎へ行く]

カイルはアップルパイをティーテーブルに置いて、そそくさとヒナの隣に戻った。

ダンはみのむしみたいにケットにくるまって、椅子に深く座り込んでいた。スペンサーがさっきぐるぐる巻きにしていたのを見ていたけど、どうしてあそこまでするのか不思議に思った。

「ねぇ、ヒナ。ダンは風邪引いちゃうのかな?」お土産に夢中で気が付かなかったけど、そうなのかもしれない。スペンサーは風邪なんか引かないので心配はいらない。

「ブルゥのほっとわいんで治るんでしょ?」ヒナがブルーノに訊く。ちょっぴり心配そうだ。

「引く前ならなんとかなるな」ブルーノは心配はいらないよというようにヒナの頭をぽんっとやると、ぐるぐる巻きのダンをじっと見つめた。

「ねぇ、ブルゥ。ジンジャーシロップ入れてくれた?」ヒナがカップの淵を指先でなぞる。

「いいや、まだだ。ひと口飲んでから言いなさい」ブルーノは最初の頃と違って、ヒナのお兄さんみたいな口をきくようになった。『はい、お坊ちゃま。わたくしに何なりとお申し付けください』なんて、きっともう口にする事はないだろう。

「はーい」ヒナはいい子の返事をして、それからカップにふぅふぅと息を吹きかけた。

そんなに熱くないのにと、カイルはスパイスたっぷりのワインをこくこくと飲んだ。喉がカーッと熱くなる。

「ねぇ、ねぇ、ブルゥ。明日は晴れる?」

「さあ、どうかな」

ブルーノはなんだかそわそわしている。ずっとスペンサーとダンの方を見ていて、時々眉間に皺を寄せて、ぶつぶつと何か言っている。

朝の事でまだ怒っているのだろうか?そのせいでダンともまだ喧嘩中?

いい加減スペンサーのこと、許してあげればいいのに。スペンサーは人をからかうのが趣味みたいなものだし、いちいち怒ってたらこっちの身が持たないっての。

それより、ヒナとブルーノがあんまり仲良くしているのを見るとすごく嫌な気持ちになる。

ヒナは僕の友達なのに。ブルーノとは友達じゃないのに。

あれれ?もしかして、これって嫉妬っていうやつ?

ブルーノ相手に嫉妬するなんて。僕って、すごく心が狭かったんだ。

それにヒナがブルーノとも友達じゃないなんて言い切れない。ヒナは誰とだって仲良しになる天才なんだから。

でもでも、やっぱり僕はヒナと一番の仲良しになりたい。

ブルーノなんかに負けないぞ。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 119 [ヒナ田舎へ行く]

ヒナはこれを飲めるのだろうか?

ダンはカップに口を付けちびちびとやりながら、ヒナのことを思った。

振り返って確かめようにも、スペンサーにぐるぐるに巻かれてしまっていて身動きとれない。

そりゃあ、風邪でも引いたらみんなにうつす可能性があって、そうなったらひどく迷惑を掛けることになるかもしれないけど、だからってこんなふうに隔離されるのは、はっきり言って心細い。背後からヒナの楽しそうな声が聞こえてくるとあってはなおのこと。

さっきまでここで四人並んでわいわいやってたのに、ブルーノのせいでヒナもカイルもあっちに行ってしまった。でもまぁ、このワインすごく美味しいし、ヒナのことも考えてくれているし、僕はここでひとりうとうとしていよう。

ああ。身体もぽかぽかしてきて、凍えるように寒かったのが嘘みたいだ。明日は丘をのぼるのだろうか?

このあとヒナをお風呂に入れて、夕食の支度を手伝って……。

ダンは目を閉じた。なんだかすごく疲れちゃってたみたい。

力が抜けていく。

ダンの指先からカップが離れる前に、スペンサーが手を伸ばし、あわやの惨事を回避した。

スペンサーはダンに同情した。ヒナの世話はさぞかし疲れるだろうし、ここに滞在中は休みがないも同然なのだ。もしもダンがいなかったら、自分たちがその苦労をすべて担う羽目になっていたのだ。

ブルーノのワインのおかげか、ダンは息もしていないのではというほど、静かに眠りに落ちている。このまま晩餐まで休んでいればいい。

スペンサーは身体を伸ばして、ダンの左脇にあるティーテーブルにカップを置いた。なかなか形のいい唇がもにょもにょとうごめく。見ているうちにふいにキスがしたくなった。やれやれ、ブルーノのことを言えた義理ではない。どうやら自分もどっぷりダンにはまりつつあるようだ。

スペンサーは元の場所に戻り際、ダンの顔の前で動きを止めた。ブルーノの方から見るとキスでもしているように見えるだろう。

実際してもよかった。が、ダンを起こしたくなかったのでそうはしなかった。

目的はブルーノを刺激することでダンを困らせることではない。

さてさて、刺激されたブルーノがどう出るのか見物だ。

つづく


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